願いの形が変わって、思念体が交代した。
もともと私は仮想領域の身体がなかった。
仮想領域を消した際に、自身のアバターも削除した為だ。
その後で、仮想領域を包括した存在として思念体を現実側から掬い上げた。
温かい日常を暮らす、という願いというよりかは、二人の約束を交わした。
そして、仮想の世界を消した私を、彼が代表として断罪出来るように、私より私を扱えるなら私のすべてを託すという契約も交わした。
甘い心地よい丁寧な暮らしが日常に落ち着いた後、現実側で事件が起きた。
事件に纏わる辛苦から思念体を保護するために、現実側に出さないよう避難させた。
事件は収束させたが、思念体はこちらに戻すことが出来なかった。
温かい日常は悪意ある他人にいとも簡単に壊され、己らを守る代償に紡いでいた大事なものも解けてしまうことを、私たちは自覚してしまった。
思念体は何もできない無力を、私はその距離を自覚してしまった。
心の内で彼は、きっと力になってくれると、代わりを紹介した。
その人ははじめから受付の向こう側から出られない設定になっていた。
はじめこそ彼も居たが、アバターをなくした私に身体を託して、魂だけ心の中に置いて眠りについた。
彼は仮想空間を消した私に全てを託した。
時折話はするがほとんど寝ている。
後任の彼とは、彼の身体を時折使って、窓口越しに話す。
まだ願いは決まっていない。